住環境と住宅地の価値 調査の概要

1.調査方法

    1. 住宅地の分類

まず、住環境の観点から住宅地を一般住宅地・計画住宅地・優良住宅地の3類型に分類します。 一般住宅地とは、基礎的住宅地要因(義務教育施設や日用品店舗等生活関連施設の整備、電気や上水道の整備など)によって価格が形成されている住宅地です。例えば、畑等の空地が介在しミニ開発地が見られる在来の住宅地域内の住宅地が挙げられます。計画住宅地とは、基礎的住宅地要因と定型的住宅環境要因(計画的な街路環境・公園等の配置、供給処理施設の完備など)が合わさって価格が形成されている住宅地です。例として、土地区画整理事業等により広域的にグリッド型の住宅地開発が行われた地域内の住宅地が挙げられます。優良住宅地とは、基礎的住宅地要因と定型的住宅環境要因に加え、付加的住宅環境要因(街区の景観・歩行者の安全等に配慮した街路設計、ポケットパークの配置など)が合わさって価格が形成されている住宅地です。例えば、ボンエルフや潤いを醸し出す緑地の整備等が行われた住宅地域内の住宅地が挙げられます。

    1. 住宅環境要因の寄与度を抽出する考え方

上記3類型の住宅地について、定型的住宅環境要因と付加的住宅環境要因に含まれる要因以外の街路条件、交通・接近条件、環境条件(日照、眺望、地勢、画地規模、供給処理施設の状態、危険嫌悪施設の有無、災害発生の危険性、公害の有無等)、行政的条件、画地条件を修正して同一とした場合には、以下の関係式が成り立ちます。計画住宅地の価格 - 一般住宅地の価格 = 定型的住宅環境要因による価格優良住宅地の価格 - 計画住宅地の価格 = 付加的住宅環境要因による価格これをイメージ化すると次のようになります。

なお、定型的住宅環境要因・付加的住宅環境要因に含まれる要因以外の価格形成要因を、計画住宅地の標準地(その属する地域内で価格形成要因が標準的と判断される画地)と同一になるように修正することによって求められる価格のことを、計画住宅地化価格と呼ぶことにします。

 

    1. 調査の手順

2.グリーンタウン高尾の調査

採用した取引事例は総数41件、内訳は優良住宅地が8件、計画住宅地が23件、一般住宅地が10件でした。グリーンタウン高尾の住宅地3類型について、計画住宅地化価格の平均は次のようになっています。

計画住宅地化価格の平均(割合は一般住宅地の平均を基準としたもの)

平均(円/㎡) 割合(%)
優良住宅地 106,160 109.2
計画住宅地 103,056 106.0
一般住宅地 97,212 100.0

これより、一般住宅地の計画住宅地化価格を基準とすれば、定型的住宅環境要因の寄与度は6.0%(=106.0%-100.0%)、付加的住宅環境要因の寄与度は3.2%(=109.2%-106.0%)となります。これらの関係を図で示すと以下の通りです。

ここで、10年前の調査結果は次のようになっています。

前回調査時の計画住宅地化価格の平均を割合で表示(平成9年1月時点)

平均(円/㎡) 割合(%)
優良住宅地 217,143 124.4
計画住宅地 209,606 120.1
一般住宅地 174,582 100.0

10年前の調査結果によると、一般住宅地の計画住宅地化価格を基準とすれば、定型的住宅環境要因の寄与度は20.1%(=120.1%-100.0%)、付加的住宅環境要因の寄与度は4.3%(=124.4%-120.1%)でした。 今回の調査では、定型的住宅環境要因・付加的住宅環境要因の寄与度が共に小さくなっています。特に、本調査の主眼である付加的住宅環境要因の寄与度については、4.3%から3.2%への減少となっています。

3.高坂ニュータウンの調査

採用した取引事例は総数66件、内訳は優良住宅地が20件、計画住宅地が39件、一般住宅地が7件でした。高坂ニュータウンの住宅地3類型について、計画住宅地化価格の平均は次のようになっています。

計画住宅地化価格の平均(割合は一般住宅地の平均を基準としたもの)

平均(円/㎡) 割合(%)
優良住宅地 81,635 128.9
計画住宅地 78,912 124.6
一般住宅地 63,334 100.0

これより、一般住宅地の計画住宅地化価格を基準とすれば、定型的住宅環境要因の寄与度は24.6%(=124.6%-100.0%)、付加的住宅環境要因の寄与度は4.3%(128.9%-124.6%)となります。これらの関係を図で示すと以下の通りです。

ここで、10年前の調査結果は次のようになっています。

前回調査時の計画住宅地化価格の平均を割合で表示(平成9年1月時点)

平均(円/㎡) 割合(%)
優良住宅地 151,253 120.7
計画住宅地 138,308 110.4
一般住宅地 125,266 100.0

10年前の調査結果によると、一般住宅地の計画住宅地化価格を基準とすれば、定型的住宅環境要因の寄与度は10.4%(=110.4%-100.0%)、付加的住宅環境要因の寄与度は10.3%(=120.7%-110.4%)でした。

今回の調査では、定型的住宅環境要因の寄与度が大きく上昇しているものの、本調査の主眼である付加的住宅環境要因の寄与度については、10.3%から4.3%への減少となっています。

4.補足調査

現在の住宅地図と10年前の住宅地図を用いて表札の変化を調査し、計画住宅地・優良住宅地における売却率を推察します。貸家などの場合もあるので、表札の変化は必ずしも売買があったことを裏付けるものではありませんが、少なくとも居住者の変更があったことはわかります。

表札の変更率が低い(=定着率が高い)地域は、居住者が住み続けたいと思う満足度の高い地域と考えられます。他方、表札の変更率が高い(=定着率が低い)地域は、何らかの理由により居住の快適性が阻害され、居住者が住み続けようと思わない地域であると考えられます。 グリーンタウン高尾について、地区別に表札の変更率をまとめると次のようになります(A~D地区の範囲は弊社が独自に判断しました。)。

優良住宅地における表札の変更率(グリーンタウン高尾)

総戸数 表札変更戸数 変更率
A地区 56 8.9%
B地区 118 11 9.3%
合 計 174 16 9.2%

計画住宅地における表札の変更率(グリーンタウン高尾)

総戸数 表札変更戸数 変更率
C地区 141 17 12.1%
D地区 274 41 15.0%
合 計 415 58 14.0%

次に、高坂ニュータウンについて、地区別に表札の変更率をまとめると次のようになります(A~I地区の範囲は弊社が独自に判断しました。)。

優良住宅地における表札の変更率(高坂ニュータウン)

総戸数 表札変更戸数 変更率
A地区 129 7.0%
B地区 103 13 12.6%
C地区 86 23 26.7%
D地区 65 11 16.9%
E地区 138 15 10.9%
合 計 521 71 13.6%

計画住宅地における表札の変更率(高坂ニュータウン)

総戸数 表札変更戸数 変更率
F地区 190 17 8.9%
G地区 124 13 10.5%
H地区 305 32 10.5%
I地区 462 49 10.6%
合 計 1,081 111 10.3%

グリーンタウン高尾については、全体としてみると、優良住宅地の変更率が計画住宅地の変更率を下回る結果となりました。10年前の調査と比較して乖離が小さくなったとは言え、優良住宅地と計画住宅地の間に計画住宅地化価格の差が依然として存在するという前記分析結果を考慮すると、優良住宅地においては人の視点に立った住環境の整備により居住の快適性が増大した結果、転居する住民が相対的に少なくなったと考えた方が自然であると考えます。特に、立地条件が類似しているB地区とC地区において、優良住宅地の変更率(9.3%)が計画住宅地の変更率(12.1%)を下回ったことは、付加的住宅環境要因の影響によるところが大きいと判断します。

なお、優良住宅地については、街区の奥に位置する画地において表札の変更が集中しています。そのような画地では機能的陳腐化が発生しやすく、経年によりボンエルフ道路が居住の快適性に与えるプラスの影響よりも、車輌での移動の容易さ(視認性など)等に与えるマイナスの影響の方が大きくなったという可能性を否定できません。

次に、高坂ニュータウンについては、優良住宅地の変更率が計画住宅地の変更率を上回る結果となりましたが、B~D地区は比較的アップダウンが目立ち、機能的陳腐化が起こりやすく居住の快適性が阻害される可能性が相対的に高いことにも注意しなければなりません。なお、立地条件が類似している優良住宅地(A地区)と計画住宅地(F地区)を比較すると、グリーンタウン高尾の場合と同様、優良住宅地の変更率の方が低くなっています。

5.住環境と住宅地の価値について

      1. 調査結果に関する考察追跡調査を実施したグリーンタウン高尾と高坂ニュータウンについて、付加的住宅環境要因の住宅地価格への寄与度は、直近の10年間においてグリーンタウン高尾では4.3%から3.2%へ、高坂ニュータウンでは10.3%から4.3%へそれぞれ減少したものの、依然として存在することが判明しました。これは、表札の変更調査の結果と整合性がとれています。もちろん、付加的住宅環境要因の住宅地価格への寄与度が減少したことは重大な問題です。しかしながら、上記の結果は、この10年間における両タウンを取り巻く環境の変化(購入者層・生活スタイルの変化など)を考慮すると、数字以上に大きな意味を持つものであり、ある意味で付加的住宅環境要因の持つ普遍性にも通じるものであると考えます。

 

      1. 「住環境」の価値を維持するために求められること両タウンにおいて「住環境」の価値が低下したことは、前述した購入者層の変化や生活スタイル・居住スタイルの変遷等の影響に加え、団地の設計や維持管理状態の良否などによるところが大きいでしょうが、その一方で優良住宅地に関する情報が市場に十分公開されていないという点も無視できないと考えられます。実際、弊社がグリーンタウン高尾と高坂ニュータウン周辺の不動産業者数社にヒアリングしたところ、ボンエルフ等の付加的住宅環境要因について広告に載せないという業者が少なからず存在していました。優良住宅地に関する情報が市場参加者に伝達されなければ、付加的住宅環境要因を評価する潜在的需要者がいたとしても物件購入に至る可能性は低くなってしまうでしょう。開発直後の団地に比べ、年数が経過した団地内の物件では売り手と買い手との間で情報の非対称性が発生する可能性が高くなるため、優良住宅地に対する適正な市場評価を維持するためには、「住環境」に関する情報を需要者に的確に提供するという意味で不動産業者等の協力が求められるところであると考えます。 また、行政サイドからも、例えばイギリスにおける「ホームインフォメーションパック(HIP)」制度のように、住宅取引に際して売主から買主への情報提供をパッケージ化する何らかの仕組み(「家歴書」等)が必要となるでしょう。以上のような、中古住宅に関する適正な情報を伝達するという官民一体の努力が無ければ、「住環境」に対する適正な市場評価の維持は困難と考えます。

編集者: 不動産鑑定士 後藤 計

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