担保評価・担保不動産の鑑定評価のあり方

Ⅰ.金融検査マニュアルの廃止について

 平成31年4月1日もって、制度上、金融検査マニュアルは廃止されました。この意図は、「金融機関の現状の実務の否定ではなく、より多様な創意工夫を可能とするために行う」であり、金融検査マニュアルが外形的基準の絶対化を醸成し、実態に即した運用を促進できなかったことに対する反省が背景にあります。実際に最近において、不動産融資を巡る検査等が行われています。

 この様に今後も、適切な担保評価・担保不動産の鑑定評価の重要性に変わりがないことから、「担保評価・担保不動産の鑑定評価のあり方について」の掲載を続けています。是非、参考にしてください。

  なお、平成29年12月・金融庁・「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」 Ⅳ.当局の態勢整備 3.検査・監督に関する方針の示し方 (1)検査マニュアルに、以下の記述があります。担保評価等の重要性を端的に表現しています。

「いうまでもなく、適切な自己査定と償却・引当は金融機関が自らの健全性を把握するための最も基礎的な要件の一つである。また、全体として償却・引当が十分な金期機関は、ストレス時であっても借り手の再建や退出等も含め、幅広い選択肢の中から適切な支援策を適時に講じることが可能となる。適切な償却・引当は金融仲介機能の強靭性の基礎である。」

 弊社としましては、鑑定評価に止まらず、適切な担保評価・資産管理の構築について、金融機関様と一緒に努力して参りたいと考えています。

Ⅱ.担保評価・担保不動産の鑑定評価のあり方

1.担保適格性について

担保適格性の観点から次の諸点に留意する。

  1. 対象不動産の担保適格性の検討を行い、当該不動産が担保適格性を欠く場合は、鑑定評価の依頼を謝絶しなければならない。これは、担保としての適格性を欠く不動産は処分不能である場合が多いため、依頼目的に徴し、鑑定評価が有用でないことによる。
  2. 担保不動産の鑑定評価は、現況評価が基本であるので、想定上の条件は原則として付加せず、物的な面及び権利関係、価格形成要因について十分な調査を行い、その価格への影響を適切に評価に反映させる必要がある。想定上の条件を付加した鑑定評価額は、対象不動産の処分可能見込額とはならないので、そもそも検査マニュアルにいう鑑定評価額には該当しない。
  3. 調査の制約等により止むを得ず条件を付して鑑定評価を行う場合は、依頼目的は資産評価とし、担保評価額としては本来的修正が必要である旨を鑑定評価書に明記する。

2.求めるべき価格の種類について

通常の担保不動産の鑑定評価は、融資時及び融資継続中においては正常価格を求めることが原則である。検査マニュアルの担保不動産評価に係る部分は、銀行等の金融機関の資産査定を行う際の担保不動産により保全されている額を判断するためのものであり、この目的の担保不動産の鑑定評価もこの範疇に入るので、求めるべき価格の種類は、正常価格である。

3.鑑定評価において特に留意すべき事項について

検査マニュアルは、「鑑定評価額がある場合には、担保評価額として精度が十分高いものとして当該担保評価額を処分可能見込額として取り扱って差し支えない」とする。「処分可能見込額」としての担保評価額の査定に不動産鑑定士による鑑定評価を尊重する姿勢を読み取ることができる。これを踏まえ、担保不動産の鑑定評価に当たっては、価格時点における売却を想定し、対象不動産の特性や市場性、収益性、需要や競争力等を十分に反映した処分可能見込額としての正常価格を求めるよう留意する必要がある。この点に関しては、とくに、用途限定ある不動産について、積算価格が高額に求められたとしても、収益性に見合わない場合は、市場において需要者を見出すことは困難であることから収益価格を重視しなければならないことを指摘しなければならない。具体的な案件について、例示すると、次のとおりである。

  1. 賃貸ビル等の鑑定評価について収益還元法を適用することは当然であるが、工場等の鑑定評価においても可能な限り事業収益等による収益価格を求め、資料の制約等により適用が困難な場合においても業界動向等をふまえ収益性を十分に勘案して評価を行うべきである。
  2. 特に、市場性の劣ると判断される不動産(ゴルフ場、大工場、リゾート施設等)については、処分可能性について、より慎重な検討が必要であり、安易に積算価格中心で求めるべきでない。最有効使用の観点から転用の可能性が低い事業用の不動産の場合には、収益価格を重視して正常価格を求めるべきであり、積算価格については、今後の稼動状態の見込等を勘案する必要がある。また、最有効使用の観点から転用、分割処分を考慮する場合は、そのための費用等を勘案する必要がある。

4.「所要の修正」について

担保不動産の評価のための適切な鑑定評価を行っている場合に、債権保全という性格を十分考慮する観点から必要な場合に行う「所用の修正」は、一般に、債権が正常な状態での処分と債務者が破綻又はそのおそれが高い状態での処分との価格修正であると考えられる。

検査マニュアルにおける「所要の修正」は、金融機関が担保評価額について処分可能見込額として妥当なものとするために行うものであって、不動産鑑定士が行うものではない。ただし、専門家としての意見を求められた場合には、次の点に留意する。

1) 意見としては、競売手続きを行った場合の処分可能見込額価格、減価率又は意見や、所有者が破綻している場合の調整事項保証金、権利義務の継承等について記載する。この際、類似の不動産における競落事例等の収集に努め、参考とする。

2) その他の修正の考え方は、次のようなものと考える。

  • 債務者が破綻した場合又はそのおそれが高い状況での担保不動産の処分では、競売手続きによる売却をも勘案し、売り急ぎ事情のもとで売却されることが多いと考えられる。不良化した債権に係る担保不動産の処分可能見込額の判断に当たっては、こうした「売急ぎ事情」の検討が必要である。
  • 調査上の制約等により、価格形成要因特に土壌汚染、建物の耐震性、賃借人の信用等の減価要因についての調査が十分に行えずやむを得ず推定によりその影響を考慮している場合には、不良化した債権に係る担保不動産の処分可能見込額の判断に当たっては、減価要因について早期売却市場の特性をふまえた厳しい査定が必要である。
  • 賃貸用不動産については、保証金等の預り金債務に見合う資金が授受されない可能性が高いので、回収可能額としては、控除する必要がある。
  • 区分所有建物について、管理費、修繕積立金等の未納金がある場合には、回収可能額としては、それを控除する必要がある。
  • 裁判所による最低売却価格について、市場性の劣る不動産は、必ずしもその価格以上で売却できない場合がある。この場合は、担保不適格不動産の場合もあるが、最終的にどの程度の価格で売却できるかの検討が必要である。
  • 競売にあたり、当然には引継がれない又は一体として処分されない権利又は不動産がある場合には、その価格への影響を考慮する必要がある。

編集者: 不動産鑑定士 後藤 計

以上

 

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