特殊な案件の考え方

これまでに当社が行ったデューデリの中で、特殊な案件についての考え方の概略を紹介します。

1.百貨店・大規模ショッピングセンター

近年の動きとして、百貨店は、その立地・規模から新規出店は殆どありませんが、経営統合による再編が見られました。大規模ショッピングセンターは、平成元年以降は全国で年間100店舗前後がオープンしていましたが、平成19年に改正まちづくり三法が施行された影響を受け、近年は以前のような積極的な出店が減少しています。
これらについて、まず大事なのは、対象物件に対する出店需要の有無を適切に把握することです。地方都市においては、青森市・富山市のようにコンパクトシティ(都市機能の集約・再編)に乗り出す動きが増えているものの、中心市街地の空洞化が進んでいる都市が多く、たとえ駅前に立地していても後継者が見つかっていない店舗も多く見られます。このような店舗は比較的広範囲の商圏を有していることが多いので、広い範囲における競合店の出店・撤退の推移・動向、マーケットの成長性、人口集中地区との位置関係、背後地となる人口集中地区の成長性等を綿密に調査することが重要です。そのためには、専門機関によるマーケットレポートを取得することも有用です。
このような物件の出口戦略としては、自用想定のケースと賃貸想定のケース(現店舗によるリースバックも含む)が考えられますが、いずれのケースについても重要となるのがその収益性で、自用・賃貸に関わらず対象店舗の売上高が大きな要素となります。
また、業種(物販・飲食・買回り品・最寄品等)によって、支払い得る家賃の売上高に対する割合(家賃負担力)が異なります。
以上より、百貨店・大規模ショッピングセンターの市場価格は、推定売上高と家賃負担力が決め手となります。
なお、これらの物件の中には、J-REITに組み込まれているものも多く見られるため、その情報開示により、非常に有益な情報を得ることができるようになっています。

2.レジャー施設(テーマパーク・水族館など)

これらは、典型的な装置産業であり、特殊性(運営方法、集客のために定期的かつ大規模な追加投資が必要であること、天候・自然災害に左右されやすいこと、季節変動が激しいことなど)が非常に強いため、想定される需要者も極めて限定的にならざるを得ませんが、それでもやはり収益性に着目されることには変わりありません。
もっとも、このような物件については、現実に物件自体が第三者へ譲渡される局面での評価というのは少なく、民事再生法の適用を受けている貸出先の債権譲渡や、運営会社への新規出資等に際して行うのが大半です。
このような物件については、当該地域の観光業への影響が大きい場合も多く、管財人や市区町村・観光協会等からの情報収集も重要となります。今後は、観光庁の取り組み、人口動向(少子高齢化)にも注目しなければなりません。

3.ホテル・旅館

一般的にホテルとは、洋式の構造及び設備を主とする宿泊施設をいい、シティホテル・ビジネスホテル・観光ホテル・リゾートホテル・レジャーホテル等に分けられます。また、旅館とは、和式の構造及び設備を主とする宿泊施設をいいます。
 ホテル・旅館についても、その収益性に着目して取引が行われることに変わりはなく、過去の売上高、売上原価、その他販管費、営業利益の推移・動向等を基として、収益還元法を中心に価格査定を行います。査定時に重要となる指標にADR(平均客室単価)・OCC(稼働率)・RevPAR(ADR×OCC)・GOP(営業総利益)などがあり、これらの分析も十分に行わなければなりません。
なお、業態の別、宿泊部門・飲食部門・宴会婚礼部門・物販部門等の部門に応じて収益構造・費用のウェイトなどが異なるので、業態・部門別の分析・検討が必要です。また、経営・運営形態(リース方式・運営委託方式など)のほか、FF&E(家具・什器備品)の取り扱い、中長期的な修繕計画及びその費用などについても十分に注意する必要があり、さらにはホテルの市場調査(SWOT分析など)にも力を入れなければなりません。
金融と不動産との融合から不動産の流動化が加速し、投資対象となり得る物件の種類の多様化が進んでいる中で、ホテルについても、ホテル特化型REITやホテルファンドを始めとする機関投資家による積極的な物件取得が相次いでいます。今後は、東京オリンピックに向けて訪日外国人客の増加が予想されることから、インバウンドの動向にもより注意が必要です。

4.老人ホーム

老人ホームについては、進行する高齢化の影響から有料老人ホームの数自体は逓増傾向にあり、新規参入も見られることから、資産の譲渡による既存ホームの経営主体の変更も可能性はあるものと推量されます。この場合において、事業用不動産という観点から、収益性に着目して評価すべきという点は上記の物件と同様です。
この場合、既存の入居者を引き継ぐことを考慮すれば、権利の形態(「利用権方式」・「所有権分譲方式」・「賃貸方式」に分類される)に加え、入居契約内容や管理規定(運営方法・料金設定・サービス内容等)についても、現在の運営形態を引き継ぐ必要があります。そのため、現在どのような運営が行われているかを把握することが重要です。
また、入居時に支払われた入居一時金の扱いについても、議論のあるところであり、その額・返還期間(返還債務の発生する期間)・返還条件等についても把握が必要です。
なお、平成23年10月の改正法施行により一本化されたサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の今後の動向にも注意しなければなりません。
さらに、近年においては、企業によるオフバランス化を目的とし、証券化するケースも増えており、ヘルスケア施設特化型のJ-REITの上場も見られました。

5.その他

なお、病院、ゴルフ場、スキー場、パチンコ店の評価については、鑑定評価タブに戻り「3.特殊物件に関する評価の考え方」を参考にしてください。

編集者: 不動産鑑定士 高木 一博

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